ATypI Paris 2023に行ってきた&自分の味覚の基準について

こんにちは。気が付けば2023年も5月。7月頭に一時帰国を予定している自分にとっては、イギリスにいる期間もあと1ヶ月半となってしまいました。とはいえ毎回ブログを書くたびに時が経つのは早いなあと書くのもアレなので、残りの一ヶ月半を楽しみたいところです。まあ、卒業制作の書体と卒論で終わるのでしょうが…

さて、5月の3日から本日15日まで、ベルギー→オランダ→フランスという3ヶ国を跨いだ旅行をしていました。今はパリのシャルル・ド・ゴール空港で帰りの飛行機を待っているところです(あと5時間半)。メインの目的は10日から13日の4日間にかけて行われたATypI Paris 2023ですが、それに付随してアントワープのプランタン・モレトゥス博物館やパリから少し離れたところにあるImprimerie Nationale(国立印刷局)の見学などもあり2週間近い旅行となりました。 今回は、この旅行を振り返りつつ、その中で気づいた自分の味覚の基準の話などをしたいと思います。

出発とベルギー、オランダ

イギリスのヒースロー空港を立つ飛行機の時間が6:50、つまり5時半ごろには空港に着いていないといけなかったため、前日の夜は寝ないという選択をしました。預け入れ手荷物のない飛行機かつ程良いサイズのキャリーバッグも持っていなかったのでバックパックに服を詰め込み、空港に向かうバスまでの4時間は自分のDiscordサーバーの友人とUnrailed!やGold It!などのゲームで遊びました。最近、こういったあまり実力のいらないゲームで遊ぶのにハマっています。

正直なところ、初日の夕方は寝不足で思考停止していたので、この前にちょっとでも寝ておけば…という気持ちはありますが、それはさておき最初はベルギーの首都、ブリュッセルへ。ハウスメイト3人と、グランプラスという大広場やサン・ミッシェル大聖堂、古いショッピングアーケードや漫画センターを見たり、レコード屋やカフェをまわり、ワッフルやフリット(ポテトフライ)を食べたりとブリュッセルを満喫しました。

ブリュッセルのグランプラス広場の様子。ゴテゴテした建物がカッコ良い

ブリュッセルの漫画センター、タンタンの像。ベルギーはタンタンやスマーフなど、日本とは別の独自の漫画文化を築いているみたい

個人的に、ブリュッセルの街の規模感は1日2日のサラッと旅行にちょうどいいなと感じました。朝から夕方までブリュッセルを楽しんだ後は、宿のあるアントワープへ。アントワープはブリュッセルよりも平坦で、もうちょっと街全体が広い雰囲気がありました。Airbnbの宿についてからは眠気でダウンしていましたが、一緒に泊まるクラスメイトと合流したのちに、駅近くにあったラーメン屋さんに行きました。日本人の方が創業されたチェーンのようで、ちゃんとラーメンしてて美味しかったです。今回泊まったAirbnbの宿でここが一番よかったのですが、トイレとバスルームに鍵が無かったのは謎です。

アントワープの街。トラム(路面電車)が網目のように走っており、交通の便は良い

Takumiラーメン。坦々麺をいただいた。パクチーは乗せないでほしい

その後の2日間はプランタン・モレトゥス博物館を周り、ライブラリーでFred Smeijers氏とGerryさんの解説を聞いたり、街中でショッピングをして過ごしました。名前はよく聞いていた博物館だけに訪れることができてよかったですし、Smeijers氏の解説付きとなれば尚更です。アントワープの街はあまり回れなかったので、また行きたいですね。 なお、この旅行中に自分が配信画面とロゴタイプのデザインを担当させていただいたNeo-Porte 3期生の 昏昏アリアさん のデビュー配信があり、街を回りながら配信をチェックしたりお仕事ツイートをしていました。なんとか無事終わってよかった…このお仕事については、またどこかでまとめようと思います。

プランタン・モレトゥス博物館、外観。タイポグラフィと書体好きには間違いなくおすすめ

アントワープのトラム内部。見た目はちょっと古いが、車内でクレジットカード決済も可能だしアプリもある。

フランダースの犬で有名な聖母大聖堂

そして5月6日にはオランダ・アムステルダムに移動。初日は着いてからカフェに行ったり、有名な美術館(らしい)Stedelijk Museum Amsterdamへ。アムステルダムは海抜が低く平坦で、自転車の街として知られており、至るところに自転車が置いてあり、主要な交通手段の一つとなっています。日本の自転車と違って骨太でシンプル、中央から止めるやつが出ているのが面白かったです。また、運河が張り巡らされており街の形状も特徴的でした。クルーズなどもやりたかったのですが、今回は時間がなくて断念。 この日は美術館を見た後アボカドの料理を食べてAirbnbの宿に移動したのですが、こちらの宿は中身は最高でしたがアムステルダムの市内からちょっと遠いのが玉に瑕。とはいえ、オランダの住宅街は屋根の形がどれも特徴的で興味深かったです。

アムステルダムの街。自転車の多さよ

Stedelijk Museum Amsterdam。正面はクラシックな見た目だが、裏側はモダンでコンテンポラリー感。グラフィックデザイナーに有名らしいけど俺は知らなかったので俺はグラフィックデザイナーではない可能性がある

夕飯のアボカドレストラン。別にアムステルダムがアボカドで有名なわけではないらしい

次の日は思い思いの1日を過ごしました。何人かは家で丸一日休みを取り、何人かは一人で自転車で街をめぐり…と言った具合。僕はお昼にクラスメイトとキューケンホフという庭園に行き、午後は一人で街の本屋や服屋さんを回りました。雑誌を2冊と、 吉竹さん が以前購入されていてかっこいいと思っていたKRAKATAUのレインコートを購入。これがアシンメトリーでめちゃくちゃカッコよくて、早速パリで気回していましたがお気に入りの一つになりました。こちらのブランドはアムステルダムにしかお店がないので実に運命的で面白いですね…アムステルダムも自由に回れたのは2日間だけだったので、また行きたいところです。

キューケンホフ。無限に花がある以外の説明ができない。マリオカート8DXで見たやつだ!

あいにくの雨に降られたアムステルダムの街中。至る所に運河がある。

アムステルダムのトラムの数字はちょっと面白いスタイル

ドゥウェイとパリ、ATypI

月曜日、アムステルダムから高速バスでフランスのリールへ。そこから電車に乗り、片田舎といった雰囲気のDouaiに着きました。 その日は特に何もせず、次の日はImprimerie Nationale(国立印刷所)へ。ヒエログリフの活字や今も活字を切っている仕事場、Monotypeの稼働現場などを見学しました(写真がなくてごめんなさい!)。そしてその日中にパリへ移動、荷物を預けてBlack[Foundry]のスタジオ見学に伺いました。

スタジオ見学では最初あまり話せなかったものの、多国籍で親しみやすいファウンダリとても良い経験でした。同時に韓国のデザイナーの方からは「日本人である以上やっぱり日本語ができることは期待されるんじゃないか」みたいなお話もして、自分のキャリアについて考える機会にもなりました。また、Black[Foundry]が開発に協力しているWebベースの書体制作ツール、Fontraを触ることもできました。自分は触っていないのですが、クラスメイト曰く、フランス語キーボードだったのもありGlyphsに慣れている彼には操作が少し難しかったとのこと…とはいえSmart Componentのような機能もすでに搭載されているらしく、今後が楽しみですね。

そして次の日、10日からいよいよATypIが始まりました。無料で1つワークショップを受けれるということで、自分は朝からハングルワークショップを受講。ちょっと極端なラテンを選んでしまったものの、なかなか楽しかったです。ただ自分ではバランスに納得していないので、またリベンジしたいところ。 その後は本屋を回った後Production Typeのスタジオ見学へ。ややクラシカルな雰囲気のあるオフィスが素敵で、Black[Foundry]と比較すると小規模でフランスのファウンダリという空気感でした。その日は夜オープニングパーティののち、中国のファウンダリの方と同級生で食事をして一日を終えました。

パリの初日のディナー、海鮮丼。こっちに来て和食食べてどうすんだとイギリスに来た頃は思っていたが、比較するのも面白い

ハングルワークショップ、真ん中が自分のもの。Narukamiを元にし、左2つはうまくいったものの複雑なグリフは難しい

ATypIオープニングの様子

ATypIは2019年の東京以来久々のオフライン開催。個人的に東京とパリを比べると、立地はパリのほうが良い一方、会場そのものは東京の方が1フロアに収まっており作業場所もあって良かったと感じています。また、東京の時は日英の翻訳がつきながら1つだけのプレゼンで進行していましたが、パリでは常に3つのプレゼンが同時に進行していました。見たいものを選べる一方かぶってしまうことがあり、そこは悩ましいところでした。

東京の頃に比べて英語のスキルが向上したのもあり、またみんよんさんや大曲さんといった方々が紹介してくださり、前よりはずっと色んな人と話せたと思います。とはいえ、MATDのクラスメイトと固まってしまうことも多く、まだまだコミュニケーション力の不足を感じるところです。次かその次にはスピーカーとして参加し、色んな人と話したいと考えています。

プレゼンはいろいろな種類があり、Petr van Blokland氏のプロジェクト専用のアシスタントスクリプトを作る技術的なもの、次世代のOpenTypeの機能紹介、書体の値段の付け方についてなどの考え方、フランスの漁船に書かれていた文字などのアーカイブ系、日本の字游工房の中野さんのリバイバル書体のプロセスなど、カテゴリは多岐にわたります。今年もやはりUnderwareのプレゼンは面白かったですし、MonotypeのJuanさんの脱植民地化に関する話も意義深かったです。3つのプレゼンが並行になっていることで自分がどのような分野に興味があるのかがわかってくる感じもちょっと面白かったです。自分は主に復刻・多言語間のハーモナイゼーション、スクリプト系などをよく見ていました。

他にも今年もType Critで自分のプロジェクトのフィードバックをいただいたり、MATDの在学生&卒業生で写真を撮ったり…と、プレゼン内外で常に忙しい3日間でした。コーヒーとカフェインに頼ることで今回はあまりプレゼン中に寝落ちせずすんで良かったです…ただ、ランチやディナーに海外の方と行く、みたいなことはあまりできなかったので、そこは今後頑張りたいですね。あと、今回も展示がありフランスの書体デザイン教育がフィーチャーされていたのですが、自分の知っていたesadやANRT以外にも様々な学校があり、かなり充実していることに驚きました。

OpenTypeの新機能トーク。書体デザインの規格界の大物が勢揃い

Underwareのトークでは、前回同様ライブペイティング。自分も1枚ゲット

Type Critの様子。自分の気になっているところが突かれて受けて良かったという感想。新しいレインコートで

未来が白紙

一方で、ATypIで様々な人と話し、また卒業が近くなってきたことで、自分の今後の進路、キャリアに悩むことも多くなってきました。今までは武蔵美への入学、レディングへの留学といった目標を決めて人生を歩んできましたが、今年の9月以降は完全に白紙です。最初はとりあえず留学すればある程度進路も確保されているのでは…と考えていましたが、書体デザインの市場も変わり続けており、ラテンスクリプトの書体デザインだけで生きていくのは厳しいことを実感する限りです。ラテンといってもそもそも僕はネイティブで英語ができるわけでもなく、かつ英語以外のラテン語圏の言語のオリジンもありません。MATDとATypIを経て、今この市場で生きていくには以下のいずれかに進むしかないのかな、と感じています。

  1. ラテンに加え、和文ができるデザイナーになる
  2. ラテンに加え、何かマイナーなスクリプトができるデザイナーになる
  3. 1, 2に加え、Pythonスクリプトやフォントエンジニアリングのスキルを獲得する
  4. 日本でラテンスクリプトをやる

書体デザイナーが溢れつつある現代では、何かしら希少性を持つことが必要です。特に欧米で希少性を獲得するためには、和文やマイナーなスクリプトが今求められているところだと感じています。幸い、日本人は他の国と比べて欧米に出ている、英語でナチュラルにコミュニケーションを取れる人が他に比べて少ない(気がする)ので、そこは1つの狙い目です。一方日本では、ラテン(+英語)ができればある程度の需要はあるのでは…と考えています。 今の段階では、卒業までにどこかヨーロッパで職を獲得できたらヨーロッパに残り、できなければ日本に帰って書体デザインとグラフィックデザインのフリーランス(もしくはどこかに入らせていただき)経験を積む…という形を考えています。最近お声がけいただくことが増えありがたい一方で、やはり自分の将来の不透明さにはまだまだ不安が残ります。

自分の味覚の基準について

閑話休題。元々は味覚の基準について書きたくてブログを書き始めたはずなのに、ATypIを振り返っていたら結構な長さになってしまいました。 イギリスに来てよく聞かれることといえば、やはり「ご飯ってどうなの?」という質問をよく聞かれます。そういった場合、自分は「まあ全然食べれるけど高いよ」という回答をしているのですが、今回の旅行でクラスメイトと何度か食事をするうちに、なんとなくうまく表現できそうな気がしてきました。

自分と同級生の味覚の基準、日本とイギリスの外食の感覚を表した概念図。自分は貧乏舌だが本当に美味しいと感じるラインは高く、日本は全体的にこちらより質が高く感じる。

自分は割と貧乏舌だと自覚しており、割となんでも美味しい、食べられると感じられることが多いです。一方、自分が全然いけるなと思っていても同級生には微妙だったりすることも多く、「食べられる」=OK, Goodなラインは自分の方が低いのかなと感じています。しかし、同級生が喜んでいる一方で自分が(そこまでめちゃくちゃ美味しいか…?)と感じることも多く、自分が本当に美味しいと感じるラインは高いのではないかと考えています。これは日本の食の質によって育まれているのかもしれません。

これらの基準を考えてなんとなく日本とこちらの外食事情を比べてみると、日本の外食は全体的にレベルが高く、値段が比較的安く美味しい食事が多いと思います。一方こちら、イギリスや自分の訪れたヨーロッパ諸国では、個人的にまあまあ美味しいと思うものがあっても、自分が本当に美味しいと感じるラインまで行くものはあまりないように感じます。(あくまで抽象的・主観の図なのでご注意ください)

先ほどの図に値段の軸を追加したもの。こちらは全体的な値段が高い。

さて、先ほどの図に値段のスキームを追加してみるとこうなります。まず、イギリスのポンドは現在170円、欧州のユーロは150円前後であり、食事に関わらず全体的に物価は日本より高いといえます。肌感覚としては1ポンド/1ユーロが100円だと妥当だと感じる程度なので、物価や食事にかかる値段は1.5倍〜1.7倍くらいかかるように思います。こちらでちゃんと食べて1000円以下に抑えることは難しく、バーガーのセットやちょっとしたプレートなどでも基本的に1500円程度はかかることが多いです。一応、その分結構量は多いのでお腹は一杯になります。 それに比べると日本は全体的な値段が安い上、値段に関わらず美味しいお店が多いと感じます。また、各国バリエーションも多く感じますし、お酒も種類があって良いですね(こっちは日本に比べて甘いお酒が少なく、外食で困ることが多いので)。こちらで暮らしていくにあたって、僕としては「まあ全然食べてはいけるんだけど、めちゃくちゃ満足な体験をできることはあまりない」というのが正直な感想です。

おわりに

ということで、結局味覚のことを書きたかったのに旅行の話が大半になってしまいました。さまざまな参加者と交流し、面白いプレゼンも見れた一方で将来は悩ましく、食のことを言語化した今ちょっと日本に一回帰りたいなあというのが今の気持ちです。雲林坊の汁なし担々麺、信濃屋や丸香のうどん、イマカツのささみカツ…などなど、食べたいものがいっぱいありますね。自分はGoogle Mapsに無限に食事処を登録しているので、日本に帰ったらまずいろんなところを巡りたいですね。とりあえず7月の初めに一回帰国するので、ぜひお世話になっている方々とは食事に行きたいところです。それでは!

自分のGoogle Maps。大量の食事処のピンが止めてある