Miscellany / Log / Life / Foreign Country • 25th September 2025
近況報告(2025年9月)
お久しぶりです。年に3本くらいブログを書きたいと年始の目標に挙げていましたが、なかなか書けていません。今はブログをHTMLで手打ちしているのですが、新しいウェブサイトを作ってCMSやmdxなどのより書きやすい形式に移ってから色々書きたいと思っており、とはいえ最近バタバタとしていてなかなかそれに手をつけることもできず…といった具合です。さて、今日はなんでバタバタしていたのか、最近の状況について述べていこうかなと思います。
独立しました
はい。見出しの通り、6月の初めにパリで勤めていたBlack Foundryを退職し、独立しました。あまり大勢には伝えていなかったので知らない方も多いとは思いますが、6月あたりからの僕の動き、すなわち急にグリフセットを整理し始めたり、カンファレンスに登壇したり、新しい欧文の開発を始めたり…といった動きを見ていた人は、もしかしたら勘づいていたかもしれませんね。独立といっても、能動的な独立というよりは、先日会社から発表があった通りBlack
Foundryが閉じることになり、段階的に社員が退職していく過程で自分も独立、という形です。幸い、もちろんフランスに税金は払っていたので現在は雇用保険で生活しつつ、自分の事業、すなわちファウンダリとして活動していくための準備を進めている感じですね。本当はフォントも揃い、ウェブサイトが完成した時点で華々しく発表したかったのですが、会社側からクローズのアナウンスがあり、それを見ていた方からどしてるん?という連絡をいただくこともあったため、もう一旦出しておいた方がいいだろうということで今ブログを認めています。Instagramの方でも、先日ポストをしてしまいましたし。
独立してすぐは、何日か休みを取ることもできましたが、1日だけにして、その次の日からフランスの労働基準法に従って一日7時間は毎日作業をするようにしています。一回止まってしまうと、一度温まったエンジンをまた熱するのが大変な気がして、なんとか動かしておいた方がいいかなと。
まず、Typographics TypeLabのAsiaチャンネルでトークをさせていただきました。ホストの方の1人に発表してみないかとお声がけいただき、その時点で退職も決まっていたのでいい機会だと思い、前から自分も利用するのが好きでしたし、掘り進めていきたいと思っていた合成フォントについて発表しました。具体的には、日本語の構造やフォントの組み合わせの歴史、和文と欧文のサイズを合わせる方法について、なぜ違いが発生するのか…といったトピックの初歩的な部分です。前の記事でも書いた通り、これは今後も深めていきたいですし、次回のATypIでも発表したいと思っています。プロポーサルは提出したので、通ってくれると嬉しいのですが。録画は現在見れないようですが、個人で持っておきたいので後で聞いておきたいですね。何人か大学院の友人や、日本の方も視聴してくださったようなのですが、結構新鮮なトピックなようで反応が良くて嬉しかったです。自分としても発表の練習になりましたが、相変わらずスライドの量がとんでもないことになってしまったので今後は気をつけていきたいですね。(30分で136枚)
また、独立後に縁あって3件ほどカスタム書体のお話をいただきました。その過程で、和文を提案するにあたってのグリフセットの整理・定義づけ、カスタムタイプデザインを行う上での説明資料の制作も6月から8月にかけて行っていました。が、残念なことにどのプロジェクトもいろいろな事情で止まってしまいました。悲しみ。カスタム書体は関わる期間も金額も大きいので、一つ一つの損失が大きく、結構沈みますね。
そして、Typographicsの発表の際にスライドを作成したのですが、どうも今まで自分が作った書体だとハマるものがなかったのもあり、前から作りたいと思っていたグロテスク、Doppoの開発に着手しました。着手というよりは、フランスに渡航する前に大まかなアイデアは作っていたので、再開といった方が正しいでしょう。現時点では、ローマンのThinからBlackが揃っており、ダイアクリティカルマークや記号類も作り、ついでグリフセットも定義し(640文字)、カーニングも行いました。今まで自分が個人で作った書体だと一番ちゃんと進んでいます。今はCompressedのスタイルを作っており、インターポレーションでCondensedも作っています。今後は、Expandedの開発ののち、イタリックを作って完成という形です。仮名も作りたいですが、いつになることやら…
そんな形で、他に友達の会社のロゴを作ったり、Webを作ったり、実家の展覧会のDMやWebサイトを作ったりもして、九月末まで過ごしています。なんだかんだでもう約4ヶ月、あっという間ですね。書体の開発は大変です。働かなくてもお金がもらえている状況でもあるので、今月の初めにはイギリスに日帰りで旅行に行きました。来月もフランスの南、ニースにEVO Franceを見にいく予定です。そして10月末から11月の半ばには日本への帰国、途中で香港2泊旅行も控えており、少し遊びながらなんとかやっています。日本に帰ったら、またいろんな人とお話ししたいと思っているのでよろしくお願いします。
これからについて
ここまで読んでくださった方の中には、ファウンダリを立ち上げたいと言っているけれど、また別のファウンダリに入るという選択肢はないのかと考える人もいるかもしれません。もともと自分はファウンダリに5年くらいは勤めて経験を積みたいとは考えていましたが、今のところその選択肢をあまり考えていないのはいくつか理由があります。まず、卒業してから数年の経験や周りを見るに、単純にファウンダリに入るのは難しいことがあります。もともとファウンダリに入ることを目指していない人もいたとはいえ、僕の同級生でファウンダリに就職したのは僕含めて2人で、何人かは就職に苦労しているようでした。そして、それは上を見ても下を見ても近しいようです。そして、フランスでも何人か大学院生の知り合いができましたが、ヨーロッパ生まれの彼らでさえ、就職は大変そうにしていて、なんとかインターン先を探している状況。日本と違って卒業後すぐ新卒として…という圧力はあまりなさそうですが、とはいえ日本人の僕が入れる望みはあまり大きくないように思えます。 そして、もし自分が入るとしたら可能性として大きいのはBlack Foundry同様日本人としてのアイデンティティーを買われ、和文のデザイナーとして入ることでしょう。ただ、その場合入る必要があるのかは疑問が浮かびます。もちろん、ファウンダリの運営やファミリーの開発、カスタム書体の進め方といった点では勉強になることは多くあるでしょうが、こと和文のデザインに関していえば自分で学ぶしかありません。それならば、個人で仕事を受け、クオリティやデザイン面に関しては幸い前職で得たつながりにフィードバックをお願いした方が金額的なリターンも大きいですし、個人の実績にもつながるのではないかと考えています。そして、前の会社に入る前に行った日本のカスタム書体の案件も個人の方が受けやすいだろうということで、一旦は独立を選んだ形です。それに、墨とPathの大曲さん回でも聞きましたが、自分には見えていなかっただけで思ったより世界にはフリーランスの書体デザイナーがいるらしいです。まあ、僕は考えが変わりやすいタイプなので、半年後には何かいい条件があって入っている可能性も否定できませんが。まあ、とりあえずやってみてって感じですね。 ファウンダリとしては自分の書体ファミリーを売り出していくのはもちろん、企業・ブランド・スタジオのカスタムタイプデザイン、また部分的に作ったフォントのダイアクリティカルマーク・シンボル・カーニングの拡張の請負といったこともしていきたいと考えています。Glyphsの講習なんかもぜひ。
書体デザインとは別に、自分は未だグラフィックデザインへの憧れも捨てきれないでいます。ただ、自覚として実力の不足を感じているところもあり。いろんな人と話して、書体という自分だけの強みがあるからそれを使っていくとか、自分の経験の総量は変わらないから飛び込んでもいいと助言をいただき多少前向きではあるのですが、どうやっていくかは分かりません。日本に戻って、またNDCでお世話になったように書体もやりつつお世話になるか、個人書体もグラフィックもやるのか、それとも書体だけに集中するかは今後の悩みです。これも、いろんな人と話してみたいですね。
拠点
日本にまた戻るかも、という話が出たので今後の拠点についても触れようと思います。雇用保険は最長一年なので、とりあえず来年の5月末までは暮らすことができます。そのため、とりあえず来年の春くらいまでは一旦パリを拠点にしたいと考えていますが、その後に関してははっきり言って白紙です。 イギリス留学の時は同級生やハウスメイトがいて今ほど強くは感じませんでしたが、フランスに来てから、特に独立してから自分の海外在住適性の低さを強く感じています。どうしても日本のつながりを求めてしまう。フランス語も勤めていた時は多少モチベーションがありましたが、独立した今となってはフランスに住み続ける意味もなく、あまり習得意欲は高くありません。また、どこか自分の頭の中で、ある程度慣れ親しんだ英語でさえ母国語の日本語と比べて100%ではコミュニケーションができないだろう、という諦めのようなものもある気がします。 ごちゃごちゃと書いてしまいましたが、ヨーロッパに滞在することはもちろんメリットも多くあります。夏は快適ですし、こちらで開催されるカンファレンスやイベントには参加しやすい。そして、いろんな国に気軽に旅行できるのも嬉しいところです。とりあえず、来年の春までにこちらでクライアントを見つけられればもう少し延長するかもしれませんが、あまり残る意味を見出せなければまた日本に帰ると思います。 日本に帰った後はどうするんでしょうね。当分は岐阜の実家にいると思いますが、やはり東京近辺には住みたいところ。ただ、日本に戻ったとて僕に仕事はあるのか…未来はなかなか分かりません。
Podcast
人を巻き込んでいるからか、なんだかんだPodcastは続けられています。昨日も無事 キスケさんのエピソード を出すことができました。まだ5回ですが、一回一回が長いので合計10時間くらいにはなっているんじゃないでしょうか。墨とPathは本当に始めて良かったと思っています。ご飯を食べに行ったくらいでは聞けないことがたくさん伺えますし、すでに5回で色々と自分の考えが変わった部分もあります。そして、自分の海外に住む寂しさも幾分か紛らわしてくれているなと感じています。最初は大成さんにお願いする立場だったのもあり、自分が頑張らなければと思っていましたが、やっていくにつれ大成さんも半分編集してくださったり、ゲストの提案やMCを請け負ってくださったりと、2人でやっている間も出てきてありがたく、嬉しいです。これはまたPodcastの方で話したいですね。まだまだ話したい人がたくさんいるので、今後も末長く続けていく予定です。
篝火
そういえば独立後のところで触れていませんでしたが、日本最大規模のスマブラSPのコミュニティ大会で、11月2日–3日に開催される篝火14にも携わっています。前回はリードデザイナーの方が別にいて、そこから汲み取りマネジメントやディレクションを行っていましたが、今回は自分からがっつり関わらせていただく方向で色々とやっています。メインの書体に私のDoppoを採用しているのもあり、急いで開発も進めつつ使っていっているという形ですね。来月末日本に帰るのもこの大会を見にいくためです。一回、自分の力を試してみたいと思い。ぜひ観戦や配信を見てみてもらえると嬉しいです。
「自分を諦めない」
最後に、最近の自分の精神、内面についても触れておこうかなと。1人になって、悩みを深く考えること、そこに読んだ本や人と話した経験を混ぜて再構築していく時間が増えました。 ここ5年くらいで、ゆっくりと私は自分が無能であること…言葉が強いので言い換えると天才ではないこと、できる人間ではないことを自覚して/させられてきました。大学在学中によく理想の自分の将来を思い描いていましたが、自分がことごとくそれを下回ってきました。何度も何度も自分の見積を下方修正して、自分のスペックが理解していきました。自分は軽く理想を成せるような天才でもなければ、それに足りないことに気づいて夜遅くまで日々努力し続け、巻き返せるほどの根性もない。この結論に行き着いた時は、正直落ち込みましたし、何日か抑鬱的な気持ちにもなりました。 しかし、一方である仮説にも辿りつきました。本当に全てが完璧な人間なんて(いるにいるでしょうが)そういないだろうと。もしかして、憧れているデザイナーの人々も、どこかのタイミングでその事実に気づいて、どこかで自分の欠点を見つけつつもなお踏ん張っているのではないかと。気づいてもなお走り続けているからこそ、今輝いて見えているんじゃないかと。 そんな仮説…むしろ、仮説というより僕の希望的観測から生まれたのがこの見出しです。自分もここで折れてしまったら何も残せません。自分の才のなさ、スペック、小ささ…そういったものを認めつつも、なんとか走り続けたいと思っています。自分を諦めない。それが今後の目標です。そうすれば、その先に何かがあるかもしれないので。何もなかったら笑うしかないですね。
相変わらず締めが暗く、そして青くなってしまいました。とはいえ、これを数年後に読み返すのも結構楽しいんですよね。この前ふと3年前くらいの記事を読み直しましたが、悩みの本質が変わってなくて面白かったです。そして、もしこの記事を読んでくださった方がいらっしゃれば、ぜひ会った時にでも考えを聞かせてください。やっぱり人と話すのが大事だなと、最近また感じています。 それでは、今後ともよろしくお願いいたします。カスタム書体デザインのお仕事などあれば、ぜひ。また、10月末に日本に帰った際にも、よろしくお願いいたします。